京都の手芸家 サヨコ のブログにお越しいただきありがとうございます。
センスアップラジオ に出演させて頂き、「モノと対話するセンス」という素敵なネーミングを頂きました。
センスアップラジオでは、いろんな分野の専門家が「センス」というコンセプトで話をしていきます。
番組のナビゲーターの方が、それぞれのゲストが持っている独自のセンスの名前を付けてくださいます。
私は「モノと対話するセンス」と名付けて頂きました。
仕事柄、作品をご覧になった方から
「色彩のセンス」「絵心のセンス」「布選びのセンス」などという言葉をよく頂きますので、普段からセンスという言葉を頂くことには慣れていました。
ですが今回の「モノと対話するセンス」というのは、新鮮でした。
番組の中でも話していますが、私は布や、建物、風景と対話しているんだと再確認しました。
そのセンスがあったことで、私は独自の作品創りが出来たのだと収録を何度も聞きながら考えています。
「林さんの作品は見る人に語りかける」「物語性のある作品」という感想をよく頂きますが、私の作品制作の中で行っている、【モノとの対話】が作品に表れているんだと思います。
私は、布を見たら一目でその布が何に適しているかを判断できます。
着物としての役目を果たした布たちが私の元に集まって来てくれて、布たちが自分の個性を私に伝えてくれます。
「私は瓦」
「私は板壁」
「私は石」
「私は空」
「私は川」
布たちが私にそう教えてくれるかのように、一目で選別します。
いろんな布たちが自然に集まって来てくれることもありがたいことです。
先日の個展で、尊敬する染色家のお一人がおっしゃってくださいました。
「布というモノはね、自分が一番輝けるところに集まってくるんですよ。サヨコさんの元に来たくて集まってくるんです。」
そうであるのなら、布たちは私の同志です。
語り合いながら作品作りをしていることは正解なんだと思いました。
従来の和キルトは、絹素材、綿素材など一つの素材に統一して縫われたものがほとんどであったと思います。そうしなければならないという既成概念があったように思います。
私の作品は、1作の中に、絹(縮緬、錦紗、紬、染柄物、平絹などいろいろ)・木綿・麻・(時にはポリエステル)などあらゆる素材を使います。
創作を始めたときから、誰に教えてもらうでもなく当然のように、素材別に瓦や板、石や川という具合に布を使い分ける判断ができましたので、誰でもこれは分かる知識だと思っていました。
でも、20年間教室で指導したり個展で作品発表する中で、この布を選び分けることは他人は簡単には出来ないのだという事が分かってきたのです。
また、今思えば、町家が「私を縫いなさい。そうすればあなたは手芸の道を歩けるよ」と伝えてくれたように思います。
町家を縫う技法も、誰に習うでもなく自然に縫う事が出来ましたから、パッチワーク経験者やキルト作家さんなら当然だれでも縫えるだろうと20年前は思っていました。
だから、初期のころは、「早く縫って表現しないと誰かが同じものを縫い始める」という、目には見えない誰かから追いかけられるように思って、自分の頭にある「縫いたいモノ」を、無我夢中で縫って形にしていました。
創作活動をする中で、私が縫う作品は、他の人にしてみれば【教えてもらわないと縫えない技術】だという事も、【誰も追ってはこられない事】も、この20年で分かりました。
この才能(センス)はどこから来たのかと考えました。
私は幼いころから、自宅の小さな町家で一人空想しながら手芸をする子供でした。
家は専業農家だっだから、両親は一年中ほとんど家に居ませんでした。
私は、居間で1人で留守番をしながら、手芸をして過ごしていました。
空想をして、独り言を言いながらいろんなモノと話をして、糸と針で遊んでいました。
外に遊びに行かず、ずっと家に居る子供だったから、家の柱に向かって話をするような子供でした。
母の箱型足踏みミシンの足元の、小さな空間にずっとしゃがんでいたり、掘りごたつの中に入って潜んでみたり、母の鏡台の三面鏡を合わせて鏡に映る向こう側の延々と続く世界を見たり。
両親が忙しく、ほとんど家族旅行にも行かなかったから、空想で旅をしていました。
幼いころは自分の作ったものを母に喜んでもらいたいという想いだったものが、大きくなるにつれて他人にも喜んでもらいたいという想いになり、それが手芸家になりたいという夢に続きました。
その夢をいつも心に強く思いながら、限られた小さな世界で自分を見つめ、周りのモノを観察しながら想像する暮らしをしていくうちに、自然と養われていった独自の【モノと対話する】というセンスなんだと思います。
沢山勉強して知識を得たから、広い世界を見たから、世間でいろんな経験をしたからといって身につくセンスではない。
そういうセンスもあるのだという事を、私自身や私の作品をご覧頂いて分かって頂けたら嬉しいです。
もし、小さなお子さんがおられる方の場合、私の事を参考にしてお子さんに接して頂けたら幸いです。