縫いのこだわり、一針を侮るなかれ

2021-12-18

京都の手芸家 サヨコ のブログにお越しいただきありがとうございます。

 

 

「町家キルトの作り方の本は無いのですか?書店で探したけれどありませんでした。。。」と作品展で時々聞かれます。

町家キルトには教科書はありません。
林サヨコが直接生徒さんの手元を見ながら指導していきます。
細かな針の持って行き方や、布扱いのこだわりは、文字で説明すると文字数が膨大となり困難なのです。

【布に印を入れる・印を合わせてまち針を打つ・印通りまっすぐ縫う】

文字で書いたら3行、たったこれだけのことですが、入会されて初回の教室では、この3つの作業を説明して長方形の布を7枚縫い合わせるだけの工程説明に2時間かけます。
古布の扱い方や、縫製にはコツがあり、そのコツを説明するには2時間かかるのです。
全くの初心者でも1年経てば、ご自分でも驚かれるほどの作品を完成させる理由がこの指導法にあります。

 

 

私が何気なく針を持って作品を縫う中で、自然にこなしている動きや作業があります。
ほんの一針、針を刺す位置とタイミング、指先の動かし方…..など
それは私には当然のことであっても、他人にはとても大切なヒントとなることが多いのです。

 

 

先日入会3年目の生徒さんに、ある縫製を指導した時

生徒さん 「このやり方、とてもやりやすいです!もっと早くに知りたかった~」

私 「皆さんこれは当然やっていると思っていたのです。やりにくそうにしている方を見て、この部分も丁寧に指導する必要があると思って最近カリキュラムに加えたんですよ。」

 

私が自然にやっていることでも、生徒さんには珍しいこともあるのです。

 

上級になると、縫製は自分で出来るようになっているので、教室で作業をせず説明だけ聞いて家で一人ゆっくりとやりたい、という方が増えていきます。
そうなると、基礎コースで習った縫製ポイントやコツを忘れてしまい、間違ったやりにくい仕方のまま作業を進めてしまう事があります。

やりにくそうにしている生徒さんの手元を、私が直接見る機会が無くなると、生徒さんはその一針にコツがある事を知らずに、そのまま何とか形にして仕上げてしまわれます。

やりにくくても、完成品はなんとか努力されて綺麗に仕上がっているので、どんな縫い方をされていたか私は気づきません。
その縫いにくいやり方を、そのまま自己流にして作品制作をして数年過ごしてしまう、という事がよくあります。

 

 

【その一針を侮るなかれ】

 

私が「出来るだけ教室で作業をして下さい」というのは、指導の時間稼ぎをしているわけではなく、生徒さんの手元を見て一針のコツを教えてあげて、作業をやりやすく綺麗に仕上げるようになってもらいたいという気持ちからなんです。

 

先日の生徒さんも「これからは先生に手元を見て頂くようにします。」とおっしゃっていました。

「町家キルトには、やりにくいという事はありません。やりにくいと思ったら、それはやり方が間違っていると思って私に聞いてみてください。必ずポイントをお伝え出来ると思いますから。」と言いました。

あの細い格子の紐も、作品展で初めて見た人は

「どうなっているの!!どうして縫ってあるの??」と驚かれます。

 

その驚きは、従来のパッチワークや洋裁のやり方で考えているからであって、縫い方とコツさえわかれば、全くの初心者が入会数か月で習得できる簡単な技術です。

 

でもその細かな針の扱い方を教科書だけで理解するのは無理だと思います。
今は動画配信での授業も可能な時代ですが、やりにくそうにしているその人の手を持ってひと針を教える事も必要です。
町家キルトの本番カリキュラム作品は動画でも無理だなぁと思っています。

教科書(作り方本)や動画は、誰もが簡単に理解できるようにしなければなりません。
そうするとどうしても画一的な簡単な作品になってしまいます。

 

 

 

本に書いていない事、皆が習っていない事を、先生から直接習う。
これは私が服飾専門学校の時の経験です。

ある先生から習った一針の技術が、今の町家キルトにとても生かされているのです。
その一針のコツは、クラスの同級生は誰も教わっていませんでした。
先生も特に重要なことだと思わず、ご自分が普段当たり前にしている作業を、私がやりにくそうにしているのをみて親切に教えてくださったのでした。

 

自分が教科書で習ったことを、指導者になったらそのまま生徒に教える。
教科書に書いてある事以外は教えないし教えられない。
そうなるとみんな同じレベルのものしか作れなくなるのです。

 

先生のこだわりの一針を、生徒自身が自分の一針として習得し、更に技を深めていく。
そんな習い方をして頂けたら、【縫い】の世界はどんどん広まると思います。