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冬になると、毎年セーターの胸元につけているブローチがあります。
母から10代の学生の頃にもらったもので、ずっと大切にしている品です。
母の鏡台の中に入っているのを見つけ、「お母ちゃん、つけないんやったら私にちょうだい!!」と、ねだってもらいました。
このブローチは、母(生きていたら84歳)が結婚する時に買ったものだと聞いていますから、もう60年以上も前の品になります。
当時田舎だった母の実家には、定期的に行商の雑貨屋さんが来ていたらしく、いろんな商品を扱っていたそうです。
その沢山の商品の箱の中にこのブローチがあって、その行商の人が、
「お嫁に行くなら、こんなブローチも持っていたらいいよ、と勧めてくれて買ったんだよ。」と母から聞いていました。
でも、母が林の家に嫁に来てからは働いてばかりで、このブローチをつけておしゃれして出かけるという事もなかったのです。
今思えば、このブローチをつけて楽しそうにお出かけする母を見たかったな…と思います。
今は母の遺品となり、このブローチにまつわる詳しい話も聞けません。
嫁入り前の母が買ったのですから、高価なものではなく安いものだったんだと思います。
どこのお店の品かもわからないし、ブランドの刻印もない無名のブローチなんですが、60年経った今でも美しく光輝いています。
留め金もしっかりとしてガラス玉が外れる心配もありません。
本当に昔の職人の技は素晴らしいですね。
手に取って眺めていると、このガラス玉を止める小さな金具を一つ一つ留め付けた職人さんの丁寧な仕事を感じます。
一つ一つ留め付けているとき、その職人さんはその品が60年後を生きる人が大切にしてくれることを願って仕事をいたでしょうか?
いえ、きっと無心で自分の仕事を精一杯していただけだと思うのです。
私の作品も、今から50年60年後、誰かの目に触れて「丁寧な仕事だなぁ。どんな人が縫ったのかな?」と、作者である私を想ってくれていたらいいなぁと思います。
このブローチのように、何十年経っても輝きを放つ作品を縫っていきたいです。