町家キルト作品を作るうえで大切にしていること

2021-09-04

京都の手芸家 サヨコ のブログにお越しいただきありがとうございます。

 

 

緊急事態宣言や長雨で、家で過ごすことがめっきり増えましたね。
私はもともと出不精で家に居ることが好きで、人と会う事は苦手な性格です。
個展会場の私を見たら「どこが??」と思われるかもしれませんが(笑)

毎日針仕事をしていても、全く飽きることはありません。
「家から出なくてもよい。人と会わなくてよい。」という状況のほうが、落ち着いて作業に取り組めます。

 

 

 

今は背割桜の刺繍を日々やっています。
毎日少しづつでも進んでいく事が楽しいです。
この刺繍作業は来年春まで続ける予定です(≧▽≦)

 

暫く個展を休むので、とても落ち着いて縫っています。
現在は子供の頃手芸を楽しんでいた気持ちに近いものがあります。

 

私の作品創りは、誰とも競い合っていません。
日々自分を見つめる作業です。

 

今日のブログは、以前にも書いたと思うのですが、教室の生徒さんに向けて、町家キルト作品を作るうえで大切にして頂きたいことについて書いてみます。

 

………………………………………………………………………

 

 

先日、修了作品を制作中の生徒さんが、作品についておっしゃったこと。

1・・「新しい作品を縫うとき、何か変わったことがしたい。誰もやってないことをしたい。」

2・・「他の生徒さんが早く進まれるから、焦ってしまう。」

 

これは他の生徒さん達からもよく聞く言葉です。

 

1の「新しい作品を縫うとき、何か変わったことがしたい…..」という言葉ですが、おっしゃる意味はとてもよくわかり共感します。
お月謝を払って習っているんだから、毎回変わったものが縫いたいというのは当然のこと。

 

初級から中級までは、基礎を身につけて頂くため、新作ごとに作品デザインが変わるので、皆さんワクワク興味津々意欲的に取り組まれます。
しかし、見本が無くなる上級の創作コースから、だんだんとダレてくる方もおられます……

見本の通り真似して縫うという段階から、自分で考えて縫う段階になると、思い通りにいかずイライラし始めます。
上達の壁というやつですね。

※新カリキュラムでは、壁を越えなくても良いという人に向けて、見本を見て縫うだけを楽しむ縫製コースを加えました。

 

新しい作品を縫うとき、何か変わったことがしたい」私が作品に取り組むときもそれに近いことを思います。

でもそれは、「前作の失敗や問題点を今作で繰り返さない。前作の技術を上回るものを縫いたい。」という事です。
前作の技術を上回るというのは、毎回真剣に作品を縫っていたら、自然と技術が上達しその次のアイデアが湧いてくるのです。

 

「ここをこうしたら、もっとやりやすいかも。もっと綺麗に縫えるかも。」とか

「この部分は、今ならもう少し緻密に縫える。」

「あの技法を使えば、こんなことが出来るかも。」など。

扱いにくい古布(絹)も、数をこなしてくると手の感覚が自然と慣れてきます。

 

町家キルトはスキルアップ(技術の上書)を最も大切にしています。
いつも教室で繰り返し言ってるのは、「1作目を理解して2作目へ進んでください。1,2作を理解して3作目に。。その積み重ねです」という事。
理解しやすいように、課題はとても丁寧にゆっくり進んでいます。

教室では、基礎4作・中級3作・上級3作、合計10作縫って頂きます。
10作目の修了作品は過去の9作の内容を真面目に習得していると、自然に綺麗に縫えるようになるし、アイデアも湧いてくるようになります。

 

町家キルトの技術やアイデアのひらめきは、『他人の引き出しを開けて、見たこともないものを手にしようとするのではなく、自分の技術の引き出しから探す。。。。』そんな感じです。

 

基礎もなく経験も訓練もせずに、いきなりすごいものを作りだそうとするのは、手芸だけではなくどんな世界でも無理なことです。

 

特に町家キルトは、古いものを大切に想うというコンセプトで、古民家や大切な建物を表現するのだから、奇を衒う作品を作ってしまうと後で嫌になってしまいます。
私の作品を見た人が「いつまで見ていても飽きない」というのは、奇を衒うことなく、毎作品真剣に取り組んでいるから、安心して見ていられるのだと思います。

町家の意匠は、瓦屋根格子戸など決まったものなのですが、私はいろんな家族の物語を想像しながら家を縫うのが好きです。
今まで何十軒も縫ってきました。
全く同じデザインでも色を変えたら無限に楽しめるのです。

 

もし、「町家ばかりを縫うのは飽きる」のであれば町家キルトは、その時点でゴールという事になります。

 

2の「他の生徒さんが早く進まれるから、焦ってしまう」という言葉。

マイペースで良いという教室なので焦る必要はないのです。
「遅れても大丈夫、何度も説明するから」という私の言葉を素直に信じてくだされば良いのです。
それは、過去の先輩生徒さんを見て頂けたら分かります。

 

忙しい人、時間に余裕のある人、体調が悪い人、元気な人などそれぞれです。
自分そっちのけで、他人に意識がいってると、良い作品など作れません。

そしてイライラして焦って縫っていると、それを見る家族の人が不愉快になります。
手芸は楽しく作業しなければ、なんの意味もありませんし、イライラして縫ったものは作品に現れますし、その作品は大切には出来ないと思います。
作品がどんなに歪んでいようと、単純なデザインであろうと、楽しんで大切に縫った作品は、何年たっても愛しいものです。

 

町家キルトの生徒さんは、20代30代の若い世代ではなく、50代~70代(80代もおられます)の人生を立派に生きてこられた方々です。
もう焦ることなく、人に合わすことなく、それぞれの自分の大切な時間を、自分を見つめて使ってほしいです。

 

既存の手芸に飽きた方が入会されることも多いです。
町家キルトは、誰もが作れる大量生産の作品ではなく、時間をかける1点ものなんですから、自分の証を残す感じで取り組んでほしいです。
作品を額装される生徒さんも多いのですが、額装するという事は作品として残すということですよね。

 

 

私は今年56歳。

生徒さんから見たらまだまだ若いと思われるかもしれません。
でも手芸歴は50年ほどあります。

人生のすべてを針と糸に掛けたようなものです。
洋裁や編み物など様々な手芸に加えて色彩の知識を修得し、それらの基礎を結集し1998年から町家キルトを縫い始め、町家キルトと風景キルト、大小合わせ縫った作品は80点ほどになりました。

 

これら全て幼いころからの日々の積み重ねの結果なのです。
私は【継続は力なり】を誰よりも実感しています。

 

真剣に取り組んだものは他人伝わる。
楽しく作業していたら、どんな長時間かかって恐ろしいほど手の込んだ作業でも楽しさが伝わる。

創作活動を通して気づいて、大切にしていることです。

 

 

私のアーティストとしての作品創りの心構えは、教室で習う立場の生徒さんには、とても重いと思います。
生徒さんもその心がけでしなさいというものでは決してありません。

でも、上級になり、作品数が増えてきたら少なからず、私の気持ちは理解でき始めるかと思いますので、参考にしておいて下さい。